工作船

【工作船の状況】
工作船は、全長約30m、幅約5mで、船底には三枚羽根のプロペラが横一列に4基装備され、両端のプロペラ後部に舵が装備されていた。このプロペラ及び推進軸は機関室に通じ、前部と後部に2基ずつ配置されたエンジン4基と各々長いシャフトで連結された特殊構造の船舶である。
引き揚げ時、船橋構造物は脱落していたが、回収した船橋の天井は鉄製であったが、丸窓付きの船橋側板は木製(合板)であった。
船首は、古い型の延縄漁船あるいは巻き網漁船に似た船型となっているが、喫水線下の形状は漁船の船型と大きく異なり、高速航行に適したV字型の船型となっている。
船尾は、中央で左右に2分割され、エアシリンダによって開閉する観音開きの扉となっており、その中に小型舟艇が格納されていた。船尾扉には、水密性を確保するためのパッキンが取り付けられていた。
船尾の上部には、開放状態を保つため人力で操作する支柱が設けられ、左扉側は内側に設置されたねじ込み式の鋼管を人力で回すことによって外側の下端で楔形金物により右側扉と併せてロックされる構造となっている。
船尾外板には船籍偽装用の鉄枠があり、船籍を書いた板をはめることで任意の船籍に偽装できるようになっていた。
また、外板の厚みも日本の漁船と比べて著しく薄く、フレーム(船体外板を支える鉄骨)の間隔が狭い等、構造的にも通常の漁船と非常に異なっていることから、工作船は特殊な用途、任務のために建造された特別な船舶であり、日本の一般漁船が輸出され、改造されたものではないと考えられている。

 

【工作船の船内配置】
工作船の上部構造物は、前方より「操舵室」、調理等を行う「居住区画」、「14.5㎜対空機関銃格納区画」となっているが、船内には居住用の区画がないことから、乗組員全員(工作船には少なくとも10人が乗り組んでいたことを確認)は操舵室を含む狭い上部構造物内で仮眠、調理等を行い、生活していたものと考えられる。
上甲板下の主船体には、船首部分に空所と固定バラスト、その後方に空所と複数の燃料タンクが設置され、船首部と操舵室(中央)との間に第1(前部)、第2(後部)機関室、中央から船尾に小舟格納区画及び燃料タンク、バラストタンクが配置されていた。
機関室前方の上甲板には、かつては何らかの武器(14.5㎜対空機関銃と推定)が装備されていたと推定されるウェル(床下収納用の倉庫区画)があり、当該ウェルの床には高圧空気が導かれ、ウェル前後の壁に各2か所、計4か所に設けられた上下方向のレールに沿って武器が上甲板まで上下できるようになっていたものと考えられる。沈没当時はウェルには武器は装備されておらず、ゴムボート等が格納されていた。
機関室後方の区画は「小舟格納区画」となっており、この区画の最前方は小型舟艇の船首部を格納するために、中央部で第2機関室内に張り出した構造になっている。小舟格納区画の後端は船尾であり、小型舟艇を出し入れするために、船尾は中央部で左右に分かれた観音開きの扉になっている。
同区画の側面には、両舷とも燃料タンクが設けられ、船底側にはバラストタンクが設けられていた。燃料タンクの上には、小型舟艇用の仮設タンク4個が設置されていた。

 

船名:長漁3705
全長:29.68m
型幅:4.66m
型深:2.30m
総トン数:44トン(重量約55トン)
主機関:ロシア製高速ディーゼルエンジン4基
出力:連続最大出力約4,400馬力(4基合計)
推進器:三翼固定ピッチプロペラ4基
速力:約33ノット/約61km/h(連続最大出力時)
航続距離:1,200海里/約2,200km(連続最大出力時)

小型舟艇

【小型舟艇の状況】
小型舟艇は、工作船船尾の観音開きの扉の奥の区画(小舟格納区画)に格納されていた。
小型舟艇は、全長11.21m、全幅2.5m、深さ0.95m、船体はFRP製(一部木製)、船体上甲板の塗色は深緑色。船体中央付近の操縦区画には、舵輪が一つ、スロットルレバーが3本ついていた。
工作船に格納するために、船橋、マスト、レーダー等の構造物は着脱式または昇降式となっており、沖合いの工作船から水深の浅い沿岸部に接近するために巧妙に設計されたものであり、マスト3本、マスト灯1個、航海灯1個、イカ釣り漁船用の灯火7個(船首倉庫に格納)、3基のスクリューを隠す遮蔽用カーテンといった小型漁船に偽装するための装備・工夫が施されていた。
船底は一般漁船と異なり、工作船同様、高速航行に適したV字型の船型となっており、速力30ノット(約55㎞/h)以上の高速航行が可能と推測される。
船体中央部の格納区画に上陸用とみられる水中スクーターを搭載していたほか、レーダー(日本製、アンテナは昇降式)、マグネットコンパス(日本製)、GPSプロッター(日本製、アンテナは昇降式でブリッジに付属)の航海計器が装備されていた。
操縦区画に最大4人が乗ることができ、船体前部の空所2か所に最大6人、最大計10人乗り込める構造となっている。
 

全長:11.21m
全幅:2.5m
深さ:0.95m
喫水:0.50m
総トン数:2.9トン(重量約6トン)
主機関:スウェーデン製ガソリン船内外機 3基
出力:約900馬力(3基合計)
推進方式:アウトドライブ
推進器:三翼固定ピッチプロペラ 3基
最大速力:約50ノット/約90㎞/h
航続距離:約150海里/約280km(速力50ノット時)

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